tender dragon Ⅰ

「ほら、戻ろ?」

「あ……うん」

花瓶を持った芽衣が、笑顔であたしの手を引っ張る。

戻りたくない。

だってあそこには、希龍くんがいる。


「誰か来てるの?」

そんなあたしを見てか、芽衣は足を止めて。

「葉太と希龍くんが来てるよ…」

2人の名前を言うと、納得したように「そっか」と言って、困ったように笑う。


「戻りたくない?」

「……大丈夫だよ」

「うそ。会いたくないんでしょ?」


何も言ってないのに、いつもバレてしまう。

きっとあたしが分かりやすいから。

隠せるほど器用じゃないから。


「もう帰る?」

いつもあたしを優先してくれて、あたしが辛くないように立ち回ってくれる。

でも、いつまでも甘えてられない。

会いたくないから、帰るなんて。

希龍くんに失礼だ。

< 350 / 428 >

この作品をシェア

pagetop