tender dragon Ⅰ
「ほら、戻ろ?」
「あ……うん」
花瓶を持った芽衣が、笑顔であたしの手を引っ張る。
戻りたくない。
だってあそこには、希龍くんがいる。
「誰か来てるの?」
そんなあたしを見てか、芽衣は足を止めて。
「葉太と希龍くんが来てるよ…」
2人の名前を言うと、納得したように「そっか」と言って、困ったように笑う。
「戻りたくない?」
「……大丈夫だよ」
「うそ。会いたくないんでしょ?」
何も言ってないのに、いつもバレてしまう。
きっとあたしが分かりやすいから。
隠せるほど器用じゃないから。
「もう帰る?」
いつもあたしを優先してくれて、あたしが辛くないように立ち回ってくれる。
でも、いつまでも甘えてられない。
会いたくないから、帰るなんて。
希龍くんに失礼だ。