tender dragon Ⅰ
どうして今電話なんか…
希龍くんが他の女の子の名前を呼ぶのなんて、聞きたくない。
春斗の病室なのに。
どうして女の子なんかと…
「そろそろ、帰る?」
「…うん、帰ろっかな…」
じわじわと沸き上がってくるのは、怒り。
希龍くんは悪くない。
そう言い聞かせてもダメだった。
怒りの矛先は、希龍くんへ。
理不尽だと思う。
だって、希龍くんはただ女の子と電話してただけ。女の子の名前を呼んだだけ。
それに、関係ないあたしが怒ってるだけ。
……嫉妬だ。
見たこともない女の子に対する、嫉妬。
―ガラッ…
電話を終えたであろう希龍くんが、病室に戻ってきた。もう、見れない。
「俺ら帰るけど、どうする?」
「じゃあ俺も帰るよ。」