tender dragon Ⅰ
顔も見たくない。
もう、心臓が間違って跳ねるのも嫌。
辛い思いしかしないんだから。
こうやって、嫉妬するのも嫌。
「美波、行くぞ」
葉太に名前を呼ばれてハッとした。
慌てて2人のあとについていく。
フツフツと沸き上がる怒りは、どこにぶつけたらいいんだろう。
"ユカ?"
希龍くんの声が。
女の子の名前を呼ぶ声が、頭の中をグルグル回る。何度も、何度も。
断れないだけの、優しい人なんじゃないの?
どうして、あんな風に優しく名前を呼ぶの?
「美波、安田の家まで送っていくけど…」
「いい…」
駐輪場までつくと、振り返った希龍くんがあたしを見て言った。送っていく、と。
今、名前を呼ばないで。
あたしを見ないで。
……涙が出るから。