tender dragon Ⅰ
希龍くんは優しいから、女の子から告白されたら断りきれないんだって。だから彼女がいっぱいいるんだって。
でも、違うよ。
だって、あんなに優しい声で名前を呼んでた。
「希龍、1人ずつに直接会って謝ったらしい。好きなやつが出来たから別れてほしいって。」
「好きな、人…?」
走りながら考えなくちゃならないから、酸欠と頭の整理でほんとに苦しい。
余裕なんて、蒼空くんにだってないはずなのに。どうして今話したんだろう。
「希龍は美波のこと、大切に想ってるよ。だから、迷惑だとか考えんな。もっと甘えていいんだよ。」
ねぇ、それって……
自惚れていいのかな…?
希龍くんの大切な人があたしなんだって、思ってもいいの?
希龍くんは女たらしなんかじゃないの?
ただ、誰よりも優しいだけで
誰も傷つけたくないだけなの?
葉太の言った通りだったの?
蒼空くんは急に立ち止まると、キョロキョロしてあたしを引っ張った。人が1人しか入れないようなところに、座らされる。
「蒼空くん…?」
「希龍に連絡しろ。助けてって言うんだ。」