tender dragon Ⅰ
「蒼空くんは…?ここにいるよね?」
そう言うと蒼空くんは分かりやすく目をそらしてうつむいた。
あたしの傍にはいてくれない。
「…ごめん、美波。ここで待ってて。」
「蒼空くん…っ」
あたしの頭を、まるで小さな子供をあやすようにポンポンと撫でて笑うと、立ち上がってもと来た道を走っていった。
止められる余裕なんてなくて、止められる勇気もなくて、その場に座り込んでいることしか出来なかった。
「電話しなきゃ…」
蒼空くんは、希龍くんに連絡しろって言ってた。しなきゃ、蒼空くんがどうなるか分からない。
希龍くんとはあれから気まずいままで、一言も喋っていなかったし、電話するのも久しぶりだから緊張する。
でも、今はそんなこと考えてる場合じゃない。
携帯を取り出して、希龍くんの名前を探す。
"神岡希龍"
その名前は確かにあって、名前を押す手が小さく震えた。
迷惑だって思わないかな…
希龍くんの大切な人があたしじゃなかったら、こんな電話迷惑に決まってる。