幽霊

「先生。」

「なんですか？」

「一ノ瀬さんだけを責めるのはやめてください。一ノ瀬さんだって話す相手がいなければ話しません。私が話に対応したのにも責任はあるはずです。一ノ瀬さんを叱るのであれば私にも。」

こういう面倒なことになるから…
あまり、話しかけないで欲しい。

「べ、別に、一ノ瀬さんだけを責めているわけじゃないのよ？それに、一ノ瀬さんをかばってあげるなんて西園寺さんは優しいのね。」

適当なこと言っちゃって…。
私も人のこと言えないけど。

「いえ。思ったことを言っただけです。それより授業を始めませんか？」

「えぇ。そうね。さ、皆さん、教科書を開いて。」

学校が終わるまでの退屈な時間
先生の声を聞き流しながらポチのことを考えていた。

二時間目が始まる前の休み時間
一人で本を読んでいると一ノ瀬さんが話しかけてきた。

「西園寺さん！さっきはありがと！！」

「え？」

「ほら、朝庇ってくれたじゃん？」

「あぁ、そのこと。別に、貴方のためじゃない。思ったことを言っただけ。」

そう言うと彼女は驚いた顔をする。

やっぱり
ちょっと冷たくすれば人は、私から離れてゆく。
あなただってそうでしょう？

「そっか。でも、私は嬉しかった。だから、ありがとう！」

「え…？あ、うん。」

予想と違う一ノ瀬さんの言葉と表情に一瞬戸惑ってしまった。

「あ、あのさ」

「何？一ノ瀬さん。」

まだ、何かあるのか…。
早く推理小説の続きを読みたいんだが。

「西園寺さんの下の名前って…蘭華、だよね？」

「そうだけど？」

「これから西園寺さんのこと、下の名前で呼んでいいかな？」

「別に、構わないけど。好きなように呼べばいい。」

少し意外。
一ノ瀬さんならいちいち許可なんて取らないと思った。

「ほんと！？やった！じゃあ、これからは蘭華って呼ぶね！！」

「わかった。」

「あとさ、私のことも…下の名前で呼んでくれない？」

「え！？それは…」

人を下の名前で呼ぶのには抵抗がある。

「あ！いや、苗字でも構わないよ！！」

「ごめん。」

「ううん。謝らないで。蘭華って呼べるだけでも嬉しいから！！」

その時二時間目の始まりを知らせるチャイムが鳴った。
推理小説の続きはまた今度だ。