大切な人
春香side
…また朝が来た。
昨日は不思議なことがあった。
「死神」が私を迎えにきた…って。
いやいや…夢だよね?
別に信じてたわけじゃないけれど、夢に出てきた「死神」の名前を読んでみた。
「ハル…?いるの?」
まさか…ね。やっぱりただの夢でしょ。
「…うん。」
その声とともに青い髪で色白な男の子が私の前に現れた。
私よりもすごく背が高くて、思わず後ずさりしてしまった。
…ていうか、夢じゃなかったの?本物の死神?
死神ってこう…鎌とかもって黒のマントを着て…。
普通、怖い生き物を想像しない?
なのに…こんなイケメンでいいの?
それに紳士みたいな格好をしている姿は、人間離れした輝きがある。
私はこの「死神」に連れて行かれるんだ…。
でも、すぐじゃないみたいだから、みんなにお別れできるかな。
昨日は、びっくりしたのと同時になんか不安になっちゃって…一緒に夕食食べちゃった。
話してみると、普通の男の子みたいなんだけどな。
男の子の名前は「ハル」っていうらしい。
私もみんなから「はる」って呼ばれてるから、親近感持っちゃって…。
すごい偶然だな。
…。
「あ!学校!」
もうすぐ死ぬって言われても、学校は行かなくちゃだめだよね?
友達にも会いたいし、お別れも…。
それから私は急いで準備を始めた。
ハルは気づいた時には消えていなくなってたけど、遅刻しちゃうから気にしないことにした。私を連れて行くまで、近くにいるって言ってたし。
遅刻しそうだったから、走って学校に来た。
でも、久しぶりに走った気がする。
運動不足だから、何回も転びそうになった。
運動しなくちゃな…なんて今さら遅いか。
「あら、はるさんじゃない。ごきげんよう。」
「あ…おはようございます。」
ついてない。
朝イチで桃華グループと会うなんて。
桃華っていうのは同じクラスで、本名は青山桃華(アオヤマ モモカ)っていう。
お父さんが大手の社長で、クラスの中では「桃華様」なんて呼ばれてる。
長い髪をクルッと巻いてバッチリメイク。
どこから見てもお嬢様って感じで苦手。
でも、そんなこと言ったら何されるかわかんない。
桃華には、シモベがついていて金で雇ってるっていうウワサ。
気に入らない奴はターゲットにされていじめられる。
先生方は気づいていてもバックが怖いから気づいていないふりをする。
私は、桃華の後ろについていた二人のシモベ達に軽く会釈をして教室に入った。
「はる~。おはよう!」
「あ~!菜子だぁ。会いたかったよぉ~!」
話しかけてきたのは友達の原 菜子(ハラ ナコ)。
中学からの友達で一番の親友。何でも話せちゃうんだよね。
「何言ってるの。毎日会ってるでしょ。バカね。そういえば今、桃華達出て行ったわよね?」
「うん…。ばったり会っちゃった。」
「…ドンマイ。」
「あ!はる!来たわよ!」
「え?」
振り返ったとたんに目に入ったのは一人の男の子。
見ただけで顔が熱くなった。だって…そこにいたのは私の…好きな人。
「ほら、あいさつくらいしてきなさいよ!」
菜子に背中を押された。
私の目の前には憧れの人、森本優輝(モリモト ユウキ)君。
名前の通り優しくて、サッカーをしているスポーツマン。
全然チャラチャラしていなくて、さわやかな感じかな。
「ゆ…優輝君。おはよう。」
「おう!おはよ。」
キャー。かっこいい!
無造作にセットされた髪をクシャッとしながら、王子様スマイル。
彼を見ているときは、嫌なことなんて忘れられる。
…でも死んじゃうんだよね?このスマイルもいつかは見れなくなるんだ。
「やったじゃない!顔、真っ赤よ?」
笑いながら、私のことを自分のことのように喜んでくれる菜子。本当に優しいな。
「起立!気を付け、礼。着席。」
授業が始まった。…っていっても話なんて全然頭に入ってこないし。
私の目線は優輝君にいってるから。
私の斜め前に座っている優輝君。
ペンをクルクル回している姿はすごく絵になる。
菜子はというと、教科書で顔を隠して寝ている。
何やってんだか。
でも、そこが菜子らしいな。
かわいいからいっか。うん、よしとしよう。
そして、私の前に座っている桃華はというと…メイク中。
おいおい、先生がとまどってるよ。
かわいそうに。注意したくても注意できないんだもんね。
先生、ドンマイ。
っていうか、香水の匂いが教室中すごいんだけど。
気づいてないみたい。いや、気づいても無視か。
「起立!気を付け、礼。着席。」
すごい勢いでさっきまで寝ていたはずの菜子が走ってきた。
「ずっと見てたわね。そんなにかっこいい?」
寝てたはずなのに、どうしてこの子は何でもわかっているんだろう。
「かっこいいよ。好きになれば、誰だってかっこよく見えるよ。」
「まあ、そうね。」
そう。恋っていうのはするのは簡単だけど、叶えるのって難しいよね。
叶えるために勇気を出すってこともね。
だから、勇気の出せない私は、思いを伝えたいとは思わない。
「ねぇねぇ、あれ。やばくない?」
菜子が指差した方向を見ると桃華グループが一人の女の子を囲んでた。
その子は地味なタイプの女の子で、いつも一人で本を読んでいる。
名前は…なんだっけ?
「ちょっとお~!何ぶつかってきてるの?桃華様が怪我でもしたら、どうするつもり?」
「あ…。ごめんなさい。」
「お前さぁ~。前見て歩けよ。桃華様がいたら、普通よけんのが常識だろ?ふざけんじゃねぇぞ?おい。あたしらにケンカ売ってんのか?あぁ?」
桃華のシモベが女の子をいじり始めた。
片方はぶりっ子でうざいし、もう片方はヤンキー口調でピアス開けまくり。かなり怖い。
ぶつかっただけで、あんなに怒る?あぁ~。かわいそう。
「は、はい。…すみませんでした。」
「なんか気に入らねぇなぁ、お前。地味だしよぉ。」
「そうねぇ。いかがいたしましょう、桃華様。」
シモベは桃華に許しをもらっているように見えた。桃華は二人を見てにっこりと笑った。
女の子の顔が恐怖でいっぱいになる。
「よっしゃ、ちょっと来いよ、お前。」
「うふふ。か・わ・い・そ・お❤ちょっとだけ、一緒に遊びましょうねぇ?」
そういったシモベは女の子の腕をつかんで教室を出て行った。
桃華を先頭に女の子のをつかんだシモベ達は生徒たちがあけた廊下の真ん中を悠々と歩いて行った。
ぽかんとその様子を見ていた菜子は、夢から覚めたようにハッと私のほうを見た。
「ちょっと、見た?かわいそうに。次はあの子かしら。」
はぁ~。と二人でため息をついた。
ターゲットにされれば桃華があきるまでいじめられる。
ターゲットにされたらたいていの人は不登校になる。
だから、みんな自分がいじめられないようにって必死。
私はさっきまで見ていた優輝君に目を移した。
彼は友達とふざけていたらしい。
優輝君…笑ってる。
何も知らないで。なんか、あそこの空間だけが平和。
いいな。男子ってそういうことないもんね。
いっつも笑ってて、幸せそう。
あぁ、男子に生まれたかったな。
…いや、それじゃあ優輝君と同性になっちゃうじゃないか。だめだめ。
すべての授業が終わって下校時刻。
今日は菜子とプリクラを撮りに行くことになった。
思い出をできるだけ残しておきたくて、私から誘ったんだ。
菜子もうれしそうに了承してくれた。
菜子と久しぶりのデートで、テンションが上がりまくりの私。
あ~。やっぱり、この生活がなくなるなんて考えられないよ。
そんなことを考えていたら、急にさみしくなってきて、もう一回っておねだりして計3回撮った。
変顔、キュン顔、テレ顔。
改めてみるとおもしろいな。
ふと1枚のプリに目を移すと菜子がデコった「ずっと友達」っていう文字が見えた。
それを見た途端に、涙があふれ出てきた。
ホントに大好き。
…ねぇ、菜子。私のこと、忘れないでいてくれる?
菜子と別れてから、私は走って家に帰った。
私、初めて死にたくないって思った。
今まで生活してきた中で「死」を意識することなんてなかったから。
でも、仕方ないんだ。これが私の運命だから。
私って、みんなの記憶から消えちゃうのかな?
親とか、菜子、優輝君に忘れられちゃうの?
嫌だ…そんなの嫌だ。誰か助けて。死にたくないよ。
昨日は不思議なことがあった。
「死神」が私を迎えにきた…って。
いやいや…夢だよね?
別に信じてたわけじゃないけれど、夢に出てきた「死神」の名前を読んでみた。
「ハル…?いるの?」
まさか…ね。やっぱりただの夢でしょ。
「…うん。」
その声とともに青い髪で色白な男の子が私の前に現れた。
私よりもすごく背が高くて、思わず後ずさりしてしまった。
…ていうか、夢じゃなかったの?本物の死神?
死神ってこう…鎌とかもって黒のマントを着て…。
普通、怖い生き物を想像しない?
なのに…こんなイケメンでいいの?
それに紳士みたいな格好をしている姿は、人間離れした輝きがある。
私はこの「死神」に連れて行かれるんだ…。
でも、すぐじゃないみたいだから、みんなにお別れできるかな。
昨日は、びっくりしたのと同時になんか不安になっちゃって…一緒に夕食食べちゃった。
話してみると、普通の男の子みたいなんだけどな。
男の子の名前は「ハル」っていうらしい。
私もみんなから「はる」って呼ばれてるから、親近感持っちゃって…。
すごい偶然だな。
…。
「あ!学校!」
もうすぐ死ぬって言われても、学校は行かなくちゃだめだよね?
友達にも会いたいし、お別れも…。
それから私は急いで準備を始めた。
ハルは気づいた時には消えていなくなってたけど、遅刻しちゃうから気にしないことにした。私を連れて行くまで、近くにいるって言ってたし。
遅刻しそうだったから、走って学校に来た。
でも、久しぶりに走った気がする。
運動不足だから、何回も転びそうになった。
運動しなくちゃな…なんて今さら遅いか。
「あら、はるさんじゃない。ごきげんよう。」
「あ…おはようございます。」
ついてない。
朝イチで桃華グループと会うなんて。
桃華っていうのは同じクラスで、本名は青山桃華(アオヤマ モモカ)っていう。
お父さんが大手の社長で、クラスの中では「桃華様」なんて呼ばれてる。
長い髪をクルッと巻いてバッチリメイク。
どこから見てもお嬢様って感じで苦手。
でも、そんなこと言ったら何されるかわかんない。
桃華には、シモベがついていて金で雇ってるっていうウワサ。
気に入らない奴はターゲットにされていじめられる。
先生方は気づいていてもバックが怖いから気づいていないふりをする。
私は、桃華の後ろについていた二人のシモベ達に軽く会釈をして教室に入った。
「はる~。おはよう!」
「あ~!菜子だぁ。会いたかったよぉ~!」
話しかけてきたのは友達の原 菜子(ハラ ナコ)。
中学からの友達で一番の親友。何でも話せちゃうんだよね。
「何言ってるの。毎日会ってるでしょ。バカね。そういえば今、桃華達出て行ったわよね?」
「うん…。ばったり会っちゃった。」
「…ドンマイ。」
「あ!はる!来たわよ!」
「え?」
振り返ったとたんに目に入ったのは一人の男の子。
見ただけで顔が熱くなった。だって…そこにいたのは私の…好きな人。
「ほら、あいさつくらいしてきなさいよ!」
菜子に背中を押された。
私の目の前には憧れの人、森本優輝(モリモト ユウキ)君。
名前の通り優しくて、サッカーをしているスポーツマン。
全然チャラチャラしていなくて、さわやかな感じかな。
「ゆ…優輝君。おはよう。」
「おう!おはよ。」
キャー。かっこいい!
無造作にセットされた髪をクシャッとしながら、王子様スマイル。
彼を見ているときは、嫌なことなんて忘れられる。
…でも死んじゃうんだよね?このスマイルもいつかは見れなくなるんだ。
「やったじゃない!顔、真っ赤よ?」
笑いながら、私のことを自分のことのように喜んでくれる菜子。本当に優しいな。
「起立!気を付け、礼。着席。」
授業が始まった。…っていっても話なんて全然頭に入ってこないし。
私の目線は優輝君にいってるから。
私の斜め前に座っている優輝君。
ペンをクルクル回している姿はすごく絵になる。
菜子はというと、教科書で顔を隠して寝ている。
何やってんだか。
でも、そこが菜子らしいな。
かわいいからいっか。うん、よしとしよう。
そして、私の前に座っている桃華はというと…メイク中。
おいおい、先生がとまどってるよ。
かわいそうに。注意したくても注意できないんだもんね。
先生、ドンマイ。
っていうか、香水の匂いが教室中すごいんだけど。
気づいてないみたい。いや、気づいても無視か。
「起立!気を付け、礼。着席。」
すごい勢いでさっきまで寝ていたはずの菜子が走ってきた。
「ずっと見てたわね。そんなにかっこいい?」
寝てたはずなのに、どうしてこの子は何でもわかっているんだろう。
「かっこいいよ。好きになれば、誰だってかっこよく見えるよ。」
「まあ、そうね。」
そう。恋っていうのはするのは簡単だけど、叶えるのって難しいよね。
叶えるために勇気を出すってこともね。
だから、勇気の出せない私は、思いを伝えたいとは思わない。
「ねぇねぇ、あれ。やばくない?」
菜子が指差した方向を見ると桃華グループが一人の女の子を囲んでた。
その子は地味なタイプの女の子で、いつも一人で本を読んでいる。
名前は…なんだっけ?
「ちょっとお~!何ぶつかってきてるの?桃華様が怪我でもしたら、どうするつもり?」
「あ…。ごめんなさい。」
「お前さぁ~。前見て歩けよ。桃華様がいたら、普通よけんのが常識だろ?ふざけんじゃねぇぞ?おい。あたしらにケンカ売ってんのか?あぁ?」
桃華のシモベが女の子をいじり始めた。
片方はぶりっ子でうざいし、もう片方はヤンキー口調でピアス開けまくり。かなり怖い。
ぶつかっただけで、あんなに怒る?あぁ~。かわいそう。
「は、はい。…すみませんでした。」
「なんか気に入らねぇなぁ、お前。地味だしよぉ。」
「そうねぇ。いかがいたしましょう、桃華様。」
シモベは桃華に許しをもらっているように見えた。桃華は二人を見てにっこりと笑った。
女の子の顔が恐怖でいっぱいになる。
「よっしゃ、ちょっと来いよ、お前。」
「うふふ。か・わ・い・そ・お❤ちょっとだけ、一緒に遊びましょうねぇ?」
そういったシモベは女の子の腕をつかんで教室を出て行った。
桃華を先頭に女の子のをつかんだシモベ達は生徒たちがあけた廊下の真ん中を悠々と歩いて行った。
ぽかんとその様子を見ていた菜子は、夢から覚めたようにハッと私のほうを見た。
「ちょっと、見た?かわいそうに。次はあの子かしら。」
はぁ~。と二人でため息をついた。
ターゲットにされれば桃華があきるまでいじめられる。
ターゲットにされたらたいていの人は不登校になる。
だから、みんな自分がいじめられないようにって必死。
私はさっきまで見ていた優輝君に目を移した。
彼は友達とふざけていたらしい。
優輝君…笑ってる。
何も知らないで。なんか、あそこの空間だけが平和。
いいな。男子ってそういうことないもんね。
いっつも笑ってて、幸せそう。
あぁ、男子に生まれたかったな。
…いや、それじゃあ優輝君と同性になっちゃうじゃないか。だめだめ。
すべての授業が終わって下校時刻。
今日は菜子とプリクラを撮りに行くことになった。
思い出をできるだけ残しておきたくて、私から誘ったんだ。
菜子もうれしそうに了承してくれた。
菜子と久しぶりのデートで、テンションが上がりまくりの私。
あ~。やっぱり、この生活がなくなるなんて考えられないよ。
そんなことを考えていたら、急にさみしくなってきて、もう一回っておねだりして計3回撮った。
変顔、キュン顔、テレ顔。
改めてみるとおもしろいな。
ふと1枚のプリに目を移すと菜子がデコった「ずっと友達」っていう文字が見えた。
それを見た途端に、涙があふれ出てきた。
ホントに大好き。
…ねぇ、菜子。私のこと、忘れないでいてくれる?
菜子と別れてから、私は走って家に帰った。
私、初めて死にたくないって思った。
今まで生活してきた中で「死」を意識することなんてなかったから。
でも、仕方ないんだ。これが私の運命だから。
私って、みんなの記憶から消えちゃうのかな?
親とか、菜子、優輝君に忘れられちゃうの?
嫌だ…そんなの嫌だ。誰か助けて。死にたくないよ。