【完】愛の血−超勝手な吸血鬼
「ちょっとー?」
顔にかかったタオルを退けようとした、瞬間だった。
グィッと勢いよく引っ張られた腕に、あたしの体は簡単にグラついた。
「きゃっ……」
そう小さく声が出た時、あたしの耳元で。
「今の俺に近づくな」
ハスキーな声。
この声はどこかで聞いた事がある。
ほんの少し前の事なのに、最近いろんな事があって忘れてた。
あの日、あの時、あの公園、耳元で囁かれた声だ。
『誰かに言ったら…殺すよ?』
景色、におい、風、その全てを思い出し、背中がゾワッとした。
でも、それよりも。
あたしに見せた椎名冬夜の顔色があまりにも酷くて。
「えっ……。ちょ、顔色悪いって!」
本当に“青白い”そんな言葉がピッタリの色。
「ほ、保健室。保健室行った方がいいよ!」
「……大丈夫。ちょっとしたら戻るから」
大丈夫って。
「そんなわけないでしょ。そんな顔色して」
「大丈夫だっつってんだろ」
さっきのハスキーさなんて、まるでない力のない声。
そんな声で言われても、ぜんぜーん説得力ないんですけど。