シンアイ
一度立ち止まりこのあとのことを考える。
このまま資料を持たずに教室に戻るか、資料室に戻って資料を取ってくるか。
資料が無いとクラスの皆が困るよね……。

……よし、一度資料室に戻ろう。それで誰もいなかったら資料を探そう。いたら……諦める。うん、そうしよう。

私は踵を返して資料室に向かった。



御園蘇芳はまだ資料室にいるだろうか……。さすがにもういないよね。
……いない、よね?

多少いや、多大な不安を抱えながら資料室に戻ってきた。
扉は開いたままだ。

そーっと中を覗き込む。

…………。

……………………いた。

何でまだいるの、御園蘇芳!
ど、どうしよう。これじゃ中に入れない。

確かめたって無駄なことはわかってるけど、もう一度中を覗き込んだ。

あれ?何か探してる?
もしかして、資料?

「確かこの辺に……。あ、これか。……ん?」

ヤバイ!見つかった!!
手遅れかもしれないけど、慌てて身を隠す。

「バレバレだよ、ウサギちゃん」

……ですよね。

「もう何もしないから出ておいで」

……信用できませんね。

「せっかく資料探してあげたのに、要らないの?」

…………。
観念して資料室に足を踏み入れる。

「ごめんね、反応が面白くてついからかっちゃった」

笑っている御園蘇芳から一定の距離を空けて立ち止まる。
御園蘇芳の手元を見て資料を確認する。間違いなく頼まれていた資料だ。

「資料、探してくれてありがとうございます」

資料を渡してもらおうと手を伸ばす。

「どういたしまして」

御園蘇芳はそう言って横を通りすぎてしまった。

「え?」

あれ、身振りだけじゃ伝わらなかった?
通りすぎてしまった御園蘇芳の背中に呼び掛ける。

「ま、待ってください。資料……」

「これ結構重いから、俺が運ぶよ」

「いえ、私が頼まれたことだから……」

「あ、両手塞がってるから扉閉めてくれる?」

「は、はい」

御園蘇芳の後を追いながら、言われた通り資料室の扉を閉める。

って何で従ってるんだろう。

「御園くん!」

「ん?」

どんどん先に行ってしまう御園蘇芳を追いかけながら説得を試みようとする。

「あの、資料」

「ウサギちゃんさ、いつも何か頼まれてるよね」

話逸らされた!
どうやら資料を渡してくれる気は無いようだ。
それにしても、私がいつも雑用頼まれてることよく知ってるな。いや皆知ってるのかも。断らないってわかってて頼んで来る人も最近増えてきたし。

「頼まれたら、断れないんです」

「ウサギちゃんは優しいね」

違う。
優しいから断らないんじゃない。
断れないんだよ。
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