風に恋して
その“おまじない”が2人の間にできたのはいつだっただろう。

幼い頃、よく泣いていたリアをあやすのはいつだってレオの役目だったし、レオはそれを自ら望んでいた。

庭で転んだとき、鍛錬がうまくいかないとき、レオと喧嘩をしたとき。先代オビディオが亡くなったときも、リアの両親が亡くなったときも……

翡翠色の瞳から次々と溢れる涙を止めたくて、それを唇で掬った。

意識していたわけではない。

ただ、そうするとリアはいつもレオを潤んだ瞳で見上げて泣き止むのだ。

「おまじないみたい」

そう言ったのは、リアだった。おそらく、マーレ王国の神話か何かに影響されての言葉だったのだと思う。けれど、レオもその通りだと思った。

リアの涙が止まるおまじない。

レオにしかできない、おまじない。

「あぁ……お前が泣いたら、このおまじないをしてやる。だから、ずっと俺のそばにいろ」
「ふふっ。うん!」

リアの笑顔は涙のせいだけではなく、キラキラと光っていた。

「そばにいろ」というレオの願いに頷いたリア。その言葉の深い意味には気づいていなかったけれど、それでもリアがレオを頼りにしてくれることが嬉しかった。

だが、今は――
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