風に恋して
「エンツォは、貴女と同じ王家専属のクラドールとしてこの城で暮らしておりました」

キレイに片付けられた執務室、セストはソファに座らせたリアの向かいに座って静かに語り出す。

「彼が王家専属のクラドールとして城にやってきたのは、今から4年前になります」

引退したクラドールの1人の後を引き継いだのがエンツォだった。

「エンツォは、先代の王――オビディオ様の推薦で城へと招かれました。理由はもちろん彼が優秀だからです」

王家専属のクラドールとして必要なのは確かな腕。王族の健康管理はもちろん、定期的な国内各地区への往診による国民の健康管理や国内のクラドールの統率なども彼らの仕事だ。

流行り病などが出れば、その対策の指揮や病の研究などを率先してやらなければならないし、薬の開発も常に取り組んでいる。

「けれどもう1つ、大きな理由がありました。それは、彼がレオ様の母君――マリナ様のお姉様であるヒメナ様の子だからです。そして、これをオビディオ様がご存知だったかどうか今となってはわかりませんが……」

セストはそこで言葉を切ってリアを真っ直ぐに見据える。1度大きく息を吸って、吐いて、そして……

「エンツォはオビディオ様の子……レオ様のお兄様にあたるのです」

リアの目が驚きに見開かれる。

セストはスッと立ち上がると、机の引き出しを鍵で開け、呪文を唱えて中から古いノートを取り出した。それを持ってソファに座り直す。
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