風に恋して
「で、でも、これだけでは2人が兄弟だとは……」

オビディオとヒメナが一夜を過ごしたことは事実かもしれない。しかし、そのときに何があったかは2人にしかわからないし、仮に2人が肌を重ねていたとしても、エンツォがそのときの子だとは言い切れない。

「ええ、私も最初はそう思いました。これを……見るまでは」

そう言ってセストが日記の最後のページにはさんであった紙切れを手にとって広げた。日記より新しい紙に、難しい文字と数字の羅列。

「クラドールである貴女ならば、この意味がわかるはずです」

親子関係を示す、それ。リアの顔が真っ青になる。

「でも、でもっ……2人が兄弟なら、どうしてエンツォは……」

弟であるレオを殺そうとするのか。

「そうですね。それは、彼の生い立ちに関係があります」

セストは紙を折りたたんで日記の最後に挟み、続ける。

「エンツォが城に来ることが決まったとき、少しだけオビディオ様から事情を伺いました。彼が幼い頃から17歳で家を出てクラドールとしての修行を始めるまで虐げられていたらしいということと、ヒメナ様がそれと同じ時期に心の病に侵されてしまったことを」

だから感情が表に出なくなってしまったのだろうと。

城でのエンツォはいつも無表情で感情を読み取れなかった。誰かと会話をするのも必要事項のみ。リアは根気良く彼とのコミュニケーションを図っていたようだったが、エンツォが城で浮いた存在だったのは言うまでもない。
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