風に恋して
ヒメナがカリストに嫁いだ頃、アレグリーニ家はかなり羽振りが良かった。金に物を言わせてやりたい放題。それでも、いろいろなコネを持っているアレグリーニ家に従う者たちは多かった。ヒメナの妹であるマリナが王家へ嫁いでいるということも1つの理由である。

そして、セストがパラパラとページをめくり、ある日の日記をリアに見せる。

『お姉様が、お心を……どうしてこんなことになってしまったの?』

その日の日記も先ほどのページのように涙で紙がふやけていた。

アレグリーニの屋敷で虐殺事件が起こったことが震える文字で書かれている。使用人もほとんどが殺され、生き残ったのはほんの何人かと心の壊れたヒメナ、そしてエンツォだと。姉はおそらく残酷な光景を目の当たりにしたショックに精神が耐えられなかったのだろう、と。

しかし、リアがそこで視線を上げてセストを見た。

「マリナ様は、カリスト様の仕打ちをご存知なかった……の?」

ヒメナとエンツォが長年虐待を受けていたとして、その元凶であるカリストの死にそれほどのショックを受けたというのは確かに変だとも思うだろう。嬉しいとまではいかなくとも、自分を傷つける存在がいなくなってどちらかといえば安心する方が人間の心理としては正しいという解釈もある。

「オビディオ様もマリナ様も、エンツォが城に入るときの身体検査で知ったようです」
「そう、ですか。でも……ヒメナ様とエンツォだけ、助かったんですよね?」

犯人が“アレグリーニ”を憎む者だとすれば、ヒメナやエンツォだって標的になるはず。リアの疑問は正しい。

「犯人については……カリストの横暴に耐え切れなくなった貴族が何者かに依頼して、というのが当時の記録です」

“当時の記録”――セストがその部分を少し強調して言うと、リアは俯いた。
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