風に恋して
シェフとカタリナを含めた侍女たちが部屋を出て行くと、部屋は沈黙に包まれた。リアは彼らが
出て行ったドアを見つめ、また俯いた。

レオはここに残るつもりなのだろうか。

「ブロケアール」

レオがそう呟いたのを聞いてリアはハッと顔を上げた。ガタガタと部屋の外からドアを揺らすような音がしてすぐに静かになる。

「――っ」

呪文の、いや、それ以上の“意味”を理解したリアは慌てて立ち上がったが、レオはそんなリアの腕を掴み、その細い身体を抱き上げた。

「や、お、降ろしてください!」

リアが身体を捩るが、レオにしっかりと抱きかかえられていてあまり意味がない。レオがレースのカーテンを身体で除けるようにして進んだかと思えば、すぐに背中が柔らかいベッドに沈んだ。

「いやですっ」

レオに組み敷かれたリアは、彼の胸を両手で押し返しながら震える声で訴える。

「リア」

優しく頬を撫でられ、低い艶のある声がリアの身体に直接響くようだ。クイッと顎を持ち上げられ、視線が絡む。

「俺を、思い出させてやる」

“どうやって”なんて、聞かなくてはわからないほど子供ではない。リアはかすかに首を振り、身体を捩ってレオの拘束から抜け出そうとした。

「頼むから、暴れるな」
「い、いやです。お願いです。やめ――っ」

リアの必死の抵抗の言葉……それを、レオが飲み込んだ。
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