風に恋して
「リア様、一体何を?」

セストは研究室に入って、迷わず奥の部屋へ入っていくリアを追いかけながら問う。

頼みたいことがある、と言ったリアのためにセストは研究室を開けた。奥の部屋はリアがよく使っていた研修室。治療の技術を磨くための場所だ。

リアが棚からいろいろな道具を出し、テキパキと治療台に乗せていく。

「セストさんは、脳の仕組みについてどれくらい知っていますか?」
「え……?」

呆然とリアの様子を見ていたセストは急に問いかけられて呆けた声を出してしまった。

「あ、いえ、基本的なことは一応一通りわかりますが」
「では、記憶操作については?」

“クラドール”としてのリアが目の前にいる。久しぶりのその光景。

「本来の記憶に偽りの記憶を被せるように縫い付けることで、記憶を封じるのと同時に偽物を本物だと脳に錯覚させる、ですか?」

リアはセストの解答に満足したように頷き、台に並べた小さな球体に呪文で濾紙を貼り付けた。

「これが、そのモデルです」

そして、リアがセストと視線を合わせる。その痛いほどの眼差しの強さにセストは手に汗をかくのを感じた。
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