風に恋して
「ああ、ごめん。リア、そんなに怒らないでよ」
「離してください」

ユベール王子に手を掴まれて、リアは顔だけ振り返って彼を睨む。

「僕が悪かったよ。ちょっと言い過ぎたね。でも、今日は虫の居所が悪いの?冗談だってわかってるでしょ?」

冗談……

リアはどこまで彼の言葉を信じたらいいのかわからず、グッと黙り込んだ。

もし、リアが今までユベール王子のこうした冗談を軽く流していたのだとしたら、すでに彼に違和感を与えてしまったことになる。これ以上、その疑いを深くするようなことはできない。

「それに今は誰もいないのに……随分他人行儀だね?」
「――っ」

ユベール王子の笑顔にリアはビクッと肩を揺らした。

自分はユベール王子とそんなに親しかったのだろうか?レオの口ぶりではヴィエント国王の婚約者と他国の王子という、決して近くはない関係だと感じたのに。

それは、リアの思い込み……?

(怖い……)

ユベール王子がリアを知っているというだけではない。何か……もっと、違う恐怖。
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