風に恋して
ユベール王子から離れたリアは、グラスの中の花びらを掬って水を一気に飲み干した。冷たい水が喉を伝っていく。それから深呼吸をして、レオにそっと近づいた。

「ああ、リア。大丈夫か?」
「席をはずしてしまってごめんなさい。外の空気を吸ったら落ち着きました」

レオに心配を掛けまいと、微笑んでみせる。レオもそれに安心したように微笑み返してくれた。

「リア、お前もベルトラン卿に会うのは久しぶりだろう」
「はい。こんばんは、ご無沙汰しております」

リアが丁寧にお辞儀をすると、その老夫婦は目を細めて笑った。

「リア様がお元気になられて嬉しいですよ。故郷に帰られたのが良かったのでしょう」
「ああ。リアの故郷は空気の澄んだいい所だ」

そうしてしばらくベルトラン卿たちと談笑していたが、リアはだんだん意識が朦朧としてくるのを感じていた。

(おか、し……)

だんだんと呼吸が苦しくなってくる。あまり体調が良くなかったのは確かだが、こんなになるほどではなかったはずだ。それなのに、先ほど水を飲んでから――

(水……?)

リアはハッとして思わず手を口に当てた。

どうして何の疑いも持たずに口をつけてしまったのだろう。ユベール王子が、花びらを入れたのが故意だとしたら……?

咄嗟にレオの手をギュッと握ってしまった。頭が痛い。リアはレオを見上げたけれど、涙が溜まって彼の表情がよく見えない。

「すまない、ベルトラン卿。リアが疲れてしまったようだから、休ませてやりたいのだが」

すぐに状況を理解したらしいレオがリアを抱き寄せて、話を切り上げようとする。

「ええ、もちろんです。病み上がりなのに大勢の人に囲まれて大変だったでしょう。さぁ、早くお部屋へ」

ベルトラン卿もリアの顔色が悪いことに気づき、心配そうな顔を向けてくれた。

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