風に恋して
――リアは両親の命日に墓参りに行ったのだ。

そこで1人の男に会った。

供える花束を抱えて歩いていたリアは、その先客に足を止めた。

すらりと高い身長に、白い細身のズボンに濃紺の上着。

足音で気がついたのだろうか、リアが立ち止まったのとほぼ同時にその男がゆっくりと顔をリアの方へと向け、その黒い瞳でリアを捕らえた。

「リア」

風に乗って届く、心地良い低音。リアの鼓膜と共に、どうしてか……心が震えた。

「だ、れ……?」

思わず漏れた声は掠れた。そのリアの問いかけに、彼は一瞬顔をしかめたがすぐに真剣な表情に戻った。

「レオ・フレスコ。お前の婚約者だ」
「レオ……?こん、やく……?」

淡々と告げられた言葉。そして、リアの目が驚きに見開かれる。

レオ・フレスコ――この国に住むものなら誰もが知っている名前。リアの住むヴィエント王国の若き王の名前だ。そんな高貴な身分のレオが、なぜ自分の名前を知っているのか。その上、婚約だなんて。

ふと上着を見れば、確かに胸ポケットにヴィエントの王家の紋章が刺繍されていた。王家の者にしか、身につけることが許されていない。

彼は本物の国王……?

けれど――
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