風に恋して
――早朝。

コンコン、と控えめなノックの音がして、レオが返事をすると鍵を使ってドアを開けたカタリナが入ってきた。あらかじめ、解除呪文を掛けておいた鍵。

「おはようございます」
「ああ、来たか」

レオはきっちりと昨夜と同じようベッドに腰掛けてリアの髪をゆっくりと梳いていた。シーツから少し見えるリアの白い肩、隠れた白い肌にも自分の散らした赤い華が咲いている。リアの頬には乾いた涙の跡が幾筋もついている。

「リア」

レオは静かにリアの名前を呼んだ。少しだけ、リアの口元が微笑んだように見えたのは、レオの願望か……あるいは。

期待をしてしまう。リアの体温も、香りも、すべてが1年前と同じなのに、彼女の心は――遠くなった。

「あの……」
「悪い、今行く」

カタリナの呼びかけにレオはそっとベッドから降り、ドアに向かう。

「リアが起きたら、湯浴みをさせてやれ。それから、何でもいいから食べさせろ」
「かしこまりました」

カタリナが頭を下げ、レオは頷いてリアの部屋を後にした。
< 20 / 344 >

この作品をシェア

pagetop