風に恋して
その夜。

『ぱー!ぱー!』

リアの部屋で、レオとリアはソファで寄り添って緩やかなときを過ごしていた。父親に会えたことがよほど嬉しいらしく、お腹の子の機嫌は良い。

「体調は、大丈夫か?」
「はい」
「ならいいが……眠り姫は相変わらずのようだな?」

レオはそう言って、リアの頬に唇を寄せた。そして、リアの唇にそれを重ねようとする。

「ま、待って……」
「リア?」

咄嗟にレオの身体を押し返してしまったリア。レオが不思議そうな顔をしてリアの瞳を覗き込む。

「あ、あの……」

子供が……とは言えず、リアは口ごもる。

本当は、言いたい。貴方の子供がお腹にいるんです、と。

けれど、怖いというのも本音。この子の力の強さは、今のコミュニケーション能力や交流会のときの突風から相当のものだとわかる。そして、レオとリアからそれぞれ風と水の属性を受け継いで……もしかしたら赤い瞳、も。

正直に言えば、産みたくない、という気持ちがある。自分の子を産みたくないなんて言われたら、レオはどんな顔をするだろう。

赤い瞳が能力者にとって疎ましい力だということを、リアは身を以って知っている。そんな他人だけが欲しがるような力を……この子にも与えてしまったら?

そんなことを考えているリアの心がわかるのか、お腹の子の声はリア以外に聴こえていない。
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