風に恋して
「俺は変化なんて小賢しい呪文は使っていない。憑依だよ。本物の……本人の身体を使うんだ。常に気を使う必要もないし、実際に動いている身体は俺じゃないから……誰も気づかない」

エンツォの言葉に、リアが息を呑む。

デペンデンシア――憑依の呪文。

理論的に不可能だとされている呪文で、使えたとしても倫理に反する。養成学校で教えることもしないし、その存在すら知っている者は多くないだろう。

「どう、やって……?」

乾いた喉から押し出すようにしてやっと出てきたのはその一言だけ。

言い伝えには、生贄の身体に自分の精神をもぐりこませて、その者になりきることができる呪文だとしてあるが、人の意識は簡単に排除できるものではない。

身体と心は密接につながっていて、他の精神が丸ごと入り込もうとすれば普通、健康な人間からは拒絶反応がでるはずだ。

それに、1つの身体に2つの精神が入り込むことは不可能だ。単純にキャパシティを超えているだけでなく、意識が衝突してしまう。つまり……
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