風に恋して
「ふふっ、リア、可愛い顔が台無しだよ。ほら、笑って。俺の話、楽しくない?」
「何が!?」

ちょっと遊んできたとでも言うように語られた人を殺めた話の、何が楽しいというのか。

「何って、そうだなぁ……」

エンツォは少し考えるような素振りを見せてから、リアに視線を向けた。

「予想外のことが起きるときは、楽しいよ?」
「予想、外?」

じっと、エンツォの視線がリアに絡まる。そしてエンツォを笑みを深め、リアのお腹を指差した。

「そ。例えば……リア、君がレオの子をその身体に宿していることとか、ね」
「――っ」

その瞬間、リアの身体がビクッと跳ねた。

「レオもセストも鈍いよね?まぁ、何度も体調を崩していたからわかりにくいっていうのもあったし、君も頑張って隠していたしね」

スッと、エンツォの瞳が鋭くなる。

「桃を残さず食べたとき、そうじゃないかって思ったんだ。君がレオに抱かれた日から計算しても、君の身体の周期は止まっていた。そうだろ?」

カタリナとしてリアの側にいたのなら、彼もそれに気づいて当然。

「抵抗の呪文には風の力が混ざっていたし。まぁ、あのときはイヴァンとかいうやつが手助けをしていたから、判断に迷ったけど。100%確信したのは交流会のとき」

突風がリアを救ったときのことだ。

「俺もちょっとイラ立っていたからさ、もうバレてもいいかなって結構大胆に行動したつもりだけど。カタリナの信頼は厚いんだね?皆、ユベール王子を疑ってくれた」

エンツォはクスクスと笑って、金色の髪を指に巻きつけて遊んでいる。その瞳は刃物のような光を称えてリアを見つめたまま。
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