風に恋して
「今、お召し物を用意いたしますね」

カタリナはリアの動揺も気にすることなく、テキパキと動く。すぐにシルクのガウンを持ってリアのそばにやって来て、リアの背中で広げるようにした。手を入れろ、ということなのだろう。

「先に……湯浴みをされますか?」

カタリナがリアの前に回って、ガウンの紐を結びながら言う。その言葉で、鼻の奥がツンとした。夢であって欲しいと思った昨夜の情事が現実のものだということを、暗に告げられた気がして。

「リア様……」

リアは小さな町の片隅に住む普通の娘、のはずだった。こんな立派な城で暮らすような身分ではない。

レオはリアが両親と同じく王家専属クラドールだったと言った。マーレ王国出身の両親は確かに優秀なクラドールだった。だが、王家専属クラドールは普通のクラドールとは別格の職業。

マーレ王国は水属性の呪文を使う民の国。その呪文の質がトラッタメント――治療――に向いているのか、国民の8割はクラドールの資格を持つ。

王家専属クラドールはそのトップに立つ者のことで、多くの知識や最高の技術を持つことはもちろん、適正試験にも合格しなければならない。

それが、いきなり本当は王家専属クラドールとして働いていたヴィエント王国の国王の婚約者だと言われた。そして、抗えない情熱に絡み取られて肌を重ねた。

リアには、好きな人がいるのに……レオを拒みきれなかった自分が怖い。リアの身体も心も、まるで自分のものではないかのようにレオに翻弄される。

「っ、うっ……」
「リア様……」

泣き出したリアの背中を、カタリナはずっと擦ってくれた。
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