風に恋して
「じゃあ、ノエ将軍も、あの花も……」
「ユベール王子がノエ将軍になってカタリナに花束を渡した。目撃者を作っておかないとノエ将軍に疑いの目がいかないだろう?」

なんという呪文なのだろう。こんなにも簡単に人を欺ける。それをユベール王子が使える。だが……

「でも、呪文使用時に放出する気は隠せないはずだわ」

体内の気の色や属性を誤魔化しても、使用中の流れ続ける気にも呪文をかけることは不可能だ。

常に流れ続ける気は見えなくても形を変える波のようなもの。元々定まっていない色や形を同じようにコントロールするには、同じように光の波長も常に変えなければならない。

身体の内側にも外側にもレフレクシオンを使い、同時にその外見をした者として怪しまれないように振る舞う。更に流れ出る気に当てる光も調節し続ける。マルチタスクなんてレベルじゃない。

「そうだね。でも光は“反射する”ものだ。ユベール王子の気は光属性」
「鏡……?」

リアが呟くように言うと、エンツォは笑みをこぼした。

「やっぱり君は優秀だね、リア。俺の風でユベール王子の周りに壁をつくる。まぁ、鏡の役割を付加するためにちょっと薬を使わないといけないんだけど、それに弾かれてユベール王子の気は外には出ない」

一定の範囲内に閉じ込められる気。その範囲外に居る者には察知できない。その壁がユベール王子の近くにあればあるほど、気を察知できる者は減っていく。

レオやセストが反射の呪文について知っていたとしても、呪術者本人の気が隠せないと思っているだろうから、ノエ将軍を疑わざるを得ない。

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