風に恋して

エンツォの過去

「やめて!やめてください!カリスト様!」
「うるさいっ!」

何度も何度も叩かれる幼い男の子と、酒の匂いをプンプンさせて鬼のような形相で彼を叩き続ける男。そして、それを止めに入る若い女。

アレグリーニの屋敷では日常となってしまったその光景。

彼女が間に入り、男の子を庇うように抱き締めたことで叩かれるのは彼女になる。

「お願いします、カリスト様。これ以上は、エンツォが……」
「チッ」

それに興が冷めてしまったのか、カリストと呼ばれた男は手を止めた。代わりに、彼女の髪の毛を乱暴に掴んで引き寄せる。

「それなら、ヒメナ、お前が相手をしろ」
「は、い……」

ヒメナは立ち上がり、カリストの後をついて行く。

「お母さん!」
「大丈夫よ、エンツォ。さぁ、早く宿題を済ませなさい」

優しい微笑みをエンツォに残して、ヒメナはカリストの寝室へと消えた。

……そんな出来事が来る日も来る日も続いて、エンツォが17歳になって間もなくしてそれは起きた。
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