風に恋して
しばらくして、リアが落ち着いてから専用のバスルームへと足を運んだ。部屋にも小さなバスルームはあるが、もっと大きいバスルームが城の1階にあり、そこへ連れて行かれたのだ。

1人で入るには大き過ぎるバスタブに張られたお湯は丁度いい温度に調節されていて、ふわりといい匂いが漂う。

「今日はラベンダーの香りにいたしました」

湯浴み担当の侍女がそう言いながら、湯船に浸かったリアの身体を洗っていく。他人に身体を洗われるのも、変な気分だ。

リアは黙ったまま、胸元に視線を落とす。侍女に擦ってもらっても、色褪せることのないその紋章と、赤く散らばった華。リアはギュッと目を閉じた。

(どうして……)

リア、と自分の名前を呼ぶ声が心の奥深くから聞こえたような気がした。「どうして」と問うたときのレオの顔が脳裏にチラつく。優しく微笑んだレオの顔。

(どうしてそんな顔をするの?)

その問いは、彼の情熱に焼き尽くされてしまった。彼の優しい愛撫に意識を攫われて、流されてしまった。

もっと乱暴に、いっそめちゃくちゃにしてくれたならこんな想いをしなかった。レオを責めることができたのに。

「リア様、そろそろ……」

身体を洗い終えてもずっと湯船に浸かり続けるリアを心配してか、侍女が声を掛けてきた。その声に現実に引き戻されて、リアは小さく頷いて湯船から出た。
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