風に恋して
「やぁ、君がエンツォ・アレグリーニ?」

誰も使っていない教室で呪文の鍛錬をしていたときのことだ。部屋に入ってきたのは同じ授業をとっている男子生徒。無愛想なエンツォに話しかける生徒はほとんどいないし、彼もその1人だったはず。

訝しげな視線を投げると、彼はクスッと笑った。

「ごめん、ここに入り込むのにちょっと彼の姿を真似てみただけだよ」

パッと彼の姿が光って、次にそこに立っていたのはルミエール王国の王子……ユベールだった。カリストが父親ではないので本当は赤の他人であるが、表向きは従兄弟にあたる。

「なぜ、こちらに?」
「君に協力してもらいたくて、かな」

ユベールはクスッと笑って教室の机の上に座った。

「叔父さんを殺したのは君なんでしょ?」
「何をおっしゃっているのですか?犯人は捕まっています」

エンツォはチラッとユベールを見て、また自分の手元に視線を戻す。

「そうだね。不思議じゃない?いるはずもない犯人が捕まるなんてさ。しかも、記憶までちゃんとくっついてる」

その言葉に、エンツォは顔を上げた。

「まさか、貴方が?」
「ふふっ!やーっぱり君が殺しちゃったんだ?」

しまった、と思ったときには遅くて。しかし、ユベールはニッコリとその美しい顔に笑顔を浮かべた。今はまだ幼さの残る表情、けれど、ゾッとするような美しさを持っていた。
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