風に恋して
「心配しないで。君に罪を問うつもりなら犯人を仕立て上げたりしない、そうでしょ?」

ユベールは「よっ」と声を出して机から降りた。

「王家専属のクラドールになって城に入るつもりなんでしょ?」
「……」

エンツォは答えなかったけれど、ユベールはそれを肯定と受け取ったようだ。

「君はさ、オビディオ様に復讐したいの?」
「――っ!俺のことを知っているのですか?」

カリストはエンツォが自分の息子ではないとあの日に知ったようだった。しかも、本当の父親のことは誰か検討もついていないような口ぶりだったのに。なぜ、ユベール王子が知っているのか。

「叔父さんは、なんていうかちょっとバカだったからさ。あんなに女遊びが激しかったのに、誰も妊娠しないって普通変に思うでしょ?」

大きな目を細めてクスクスと笑うユベール。

「でも、母上は気づいてたよ。だから君が叔父さんを殺しちゃった後、僕に教えてくれた」
「伯母さんが?」

エンツォは今や手を動かすことを忘れてユベールの話を聞いていた。

「うん。エンツォはオビディオ様の子に違いないって言ってた。ほら、君の母親の父親はオビディオ様の側近でしょ?母上は父上と一緒に何度か交流会に言ったことがあるらしいんだけど、2人とも恋人みたいに仲が良かったって」

本来側室は王と外に出ることはないが、ユベールの母親はかなり気に入られていると聞いている。よく公務にも彼女を連れていると言う話は有名だし、交流会に行ったのも本当だろうと思えた。

「でもさ、今はマリナ様ととっても仲がいいしさ。レオも城で裕福な暮らしをしてる。君がこんなに頑張ってお勉強している間も」

そう言ってユベールがエンツォの机にあったノートをつまんで持ち上げる。
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