風に恋して
――リアは床に膝をついて呼吸を整えていた。額には汗が滲んでいる。

「くっは、はっ、はぁっ……」

人の記憶を見ることは体力がいる。本来、自分にはないものを取り込むようなものだからだ。

「わかった?これが、俺の復讐の理由」
「ちがっ――」

言いかけて、グッと髪の毛を引っ張られて立ち上がらされる。そしてまた、首を掴まれた。その手を引き剥がそうと両手で掴むが、力の差は歴然だ。

「溺愛する君の記憶から自分が抜け落ちて、他の男に恋をして……自分の元に連れ戻した矢先に精神崩壊。最初のシナリオさ」

力の籠もった右手とは対照的に、左手が優しくリアの頬をなぞる。

「まさか、レオ本人に見つかっちゃうとは“予想外”だったかな。ま、バックアップに侵食の呪いをかけておいたのは正解だった」

リアは遠くなりそうな意識を必死につなぎとめる。

「レオも君の好物を出してあげろと言っていたし、特に怪しまれることもなかった。あの呪い……リア、君を焚きつけたのは誰だった?」

その言葉に、リアの喉がヒクッと動き、エンツォが愛おしそうに彼女の唇をなぞる。

食事をしないリアに好物を並べて、“私たちはリアを知っている”と暗に告げていた。カタリナならば、シェフにメニューの提案をできる。

それに、あのとき食事が喉を通らないのなら飲み物をと……今考えてみれば“追いうち”をかけてきたのはカタリナだった。

「愛する人に殺されるって、これ以上にない悲劇だろ?」

リアの首に強く圧力がかかる。
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