風に恋して
「セストさんがぼんやりするなんて珍しいですね?あぁ……これはもう読めませんね。本当にすみません。最初からやるなら、私もお手伝いしますから」

イェニーは深く頭を下げ、申し訳なさそうな視線をセストに向けた。

「ありがとう。でも、大丈――」

そう言いかけて、セストはハッと気づく。

(最初から?)

最初は、研究室でリアが……いや、違う。それは最初に“エンツォが仕掛けてきた”とき。リアをヴィエント城へ連れ戻したのが本当に最初の出来事。そして、その夜レオは――

「――っ!」

セストは勢いよく立ち上がった。そして迷わず隣の広間へと続く扉に進む。

「「セストさん!?」」

他国の側近たち全員が、セストらしからぬ行動に驚いている。そもそも、今セストが向かっている扉の向こう、広間で王や王子たちが食事中だ。そんな中に入っていくなど……

だが、誰かが止める間もなくセストは扉に手を掛けた――
< 239 / 344 >

この作品をシェア

pagetop