風に恋して
「けほっ、くっ」
「はっ、かはっ」

咄嗟に風で周囲に壁を作ったセストだが、埃を吸い込んでしまったらしくリアもセストも苦しそうに咳き込んだ。

「その名を口にするな!」

肩で息をしながらエンツォが叫ぶ。その様子を冷静に見つめて、レオが静かに口を開いた。

「エンツォ、お前は誤解している」
「誤解?何が誤解なんだ?母さんが捨てられたのは紛れもない事実だ」

エンツォが呪文を唱え、その左手に剣が現れる。

「父上はお前の母親を愛していた。けれど、お前の母親は婚約直前に父親とカリストに騙されて純潔を奪われた。だから――くっ」

キン、と鋭い音がして、レオとエンツォの剣がぶつかる。

「でも最後にいい思いだけしようと抱いた?面倒な“初めて”の妹より良かったとでも?」
「違う!そうじゃない!」

グッと押し込まれるような剣の重みを受け止めながら、レオはエンツォの瞳を覗き込んだ。青みがかったその色は、確かにヒメナのもの。マリナともよく似ている。だが、映っているのは憎しみのみ。

「正義ぶった君たちの言い訳を聞いても、母さんと俺が苦しんだ過去も、母さんが壊れてしまった現実も、変わるわけじゃない!!」
「っ、く……」

レオは両手で剣を持っているというのに、左手だけでそれと同等の――いや、僅かに勝るほどの――圧力をかけてくるエンツォ。
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