風に恋して
身支度が終わって部屋に戻ると、シェフがちょうど料理をテーブルに並べ始めたところだった。

リアが湯浴みを終えて戻ってくるタイミングもしっかりと伝わっていたらしい。何もかもが完璧だ。

リアが湯浴みを終える前に部屋の掃除などもしてくれたらしい。最も、掃除する前と変わったことはベッドのレースカーテンが支柱に結ばれ、シーツも新しく変えられて綺麗にベッドメイキングされているくらい。

「さぁ、こちらへ」

カタリナに促されて、リアは椅子に座った。

「リア様、本日はカボチャのパンを作りました。どうぞ」

お皿の上に2つ乗せられたほんのりオレンジ色のパンは、焼きたてらしい。見るからに柔らかそうだ。

リアは笑顔のシェフを見て、困ってしまった。昨日から、リアの好物ばかりを用意してくれる。食べないのはそれを無駄にしてしまうということであり、更にリアのために作ってくれたシェフにも申し訳ない。わかっているけれど、本当に食欲が湧かないのだ。

「あの……」
「リア様、いけません」

リアが言葉を続けるより早く、カタリナが厳しい声を出す。

「――っ、でも、私……」
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