風に恋して
「ふふっ、リア。可愛い顔が台無しだって言ったのに。あぁ、でも濡れた姿は色っぽいかもね?」
「わ、たしが……人を、殺したって……本当、なの?」
「やめろ!リア、聞くな!」

リアの身体が震える。それは、水をかぶって寒いからではない。

「本当だよ。でもショックのせいか、その記憶はちょっと歪んでた。だから本物の記憶を持っていた君も知らない」

エンツォがとても……美しい笑顔をリアに向けた。そして、レオに向き直る。

「さぁ、レオ。ここまで長かったけどさ、君の大切な人が壊れる瞬間をよく見ているといい」
「く、やめっ――」

キーン、と一際大きな金属音が響いて、レオの剣が弾かれた。同時にレオの鳩尾に、いつのまにかエンツォの右手に渦巻いていた風がグッと入る。

「ぐはっ」
「レオ!」

壁に叩きつけられて、レオは床に倒れこんだ。駆け寄りたいのに、リアの身体は動かない。先ほどの呪文でかなり体力を消耗してしまったのもあるし、身体が震えているせいもある。

「はっ、やめ……かはっ、リアっ!」

レオが苦しそうに呻いて、血を吐く。グッと拳を握って身体を起こそうとしてもうまく力が入らないようだ。

そんなレオの姿を一瞥すると、エンツォがゆっくりとリアに歩み寄ってきた。
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