風に恋して
「リア、最後のプレゼントにそれもちゃんと思い出させてあげる」
「エンツォ……」

あぁ、彼は……悲しみに、憎しみに心を支配されてしまっている。

どうして、こんな風になってしまったのだろう。

カリストが彼を虐げていたから?

マリナがヒメナとオビディオに一夜の逢瀬を与えたから?

カリストがヒメナの純潔を奪ったから?

それとも、初めから……オビディオとヒメナが出会ってしまったから?

違う。そうやって辿っていったらきりがないのだ。本能のままに、ときには定められた運命を受け入れて、生きてきた人々を責めることなど……

強いて言うならば……神がそれを望んだ、と。

そんな風に思うのは、リアが逃げているからだろうか。自分が彼に何もしてあげられないことへの、言い訳なのだろうか。

スッと座り込んで目線を合わせ、リアを見つめるエンツォの瞳は綺麗な海の色のようだ。深い、青。

「さよなら、リア」

そう、言われて……リアの頬に一筋の涙が伝った。

「レコルダール」

それが、リアに届いた最後の言葉――追憶の、呪文。
< 252 / 344 >

この作品をシェア

pagetop