風に恋して
第六章:風向きの変化

記憶修正

『あぁぁぁぁぁぁ!うっ、ふぇぇぇぇぇ』

赤ん坊の泣き声が響き渡るヴィエント城の治療室。

「ディーノ兄さん、呪文!」

レオの容態を診て呪文を入れていたディノの妹、エレナが叫ぶ。

「わかってる」

その泣き声と共に立っているのがやっとなほどの風が吹き荒れ、ディノが素早く呪文を唱えて水のベールを作った。壁の棚や治療器具に被害が及ばないよう、部屋にあるものすべてを覆う。

「うっ、あぁっ、あぁぁぁ!」

そして赤ん坊の泣き声に共鳴するように一番端のベッドに眠っていたリアが身体を起こし、胸をかきむしった。

「――っ!エレナ、代わって!」
「うん」

エレナの呪文ですべてのベールが彼女に渡った後、ディノは素早くリアのベッドに近づいた。

「リア様、少しだけ我慢してくださいね。お子様も」

リアには聞こえていないだろうけれど、そう断ってディノはリアの手を掴んで呪文を入れた。するとリアが落ち着きを取り戻し、ベッドに横たわる。その瞳は虚ろで天井の1点をじっと見つめている。

「どうして……こんなっ」

ディノが拳を握り締めて立ち尽くす。

リアは精神が壊れかけている。今は定期的に鎮静の呪文を使っているけれど、だんだんと効果の持続時間が短くなってきている。このままでは、引き返せないところまですぐにたどり着いてしまうように思えた。
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