風に恋して
「リア、こんなところでどうしたんだい?」

ヴィエント敷地内の大きな訓練場の隅。急に後ろから声を掛けられて、ボーっとしていたリアはビクッと身体を跳ねさせた。

「ああ、悪い。驚かせたか?」
「マルコ将軍……こんにちは」

リアが振り返ると、体格のいい中年の男性がタオルで汗を拭いながらこちらに歩いてきていた。

マルコ将軍――リアにそう呼ばれた彼は、ヴィエントの軍をまとめる大将だ。訓練が終わって出てきたらリアが突っ立っていたから声を掛けてくれたのだろう。

「レオ様は、今日は公務があるから剣の稽古には顔を出していないよ」
「あの……えっと、それは、知っているんですけど……」

ぎこちないリアの態度にマルコが首を傾げる。そしてリアの視界にマルコの後ろから出てきた1人の青年が映ってリアは身体を硬くした。

それをマルコが見逃すはずもなく。彼はチラッと振り返り、少しそわそわした様子の部下を見て「あぁ」と小さく呟いた。

「リア、ちょうど良かった。少し今週の食事プランを変えたいんだ、執務室に来てくれるかい?」
「え……?あ、でも……」

突然の申し出にリアは戸惑う。マルコの頼みを断るつもりはないけれど、自分は約束があってここに来たからだ。約束、というよりは……一方的に押し付けられたような気もするが。

「バレリオ、今日は集中力に欠けていたぞ。残って基礎訓練をもう1度やってから食事に行け」
「へ……待ってください!俺――っ」

マルコはスッと目を細めてバレリオと呼ばれたその青年を見た。バレリオはグッと押し黙る。そして、一礼をして訓練場に戻っていった。
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