風に恋して
――同じ日の朝、ルミエール城の数ある部屋の一室で。

「エンツォ、あとどれくらいなの?」
「1ヶ月ほどです」

その返答にユベールはつまらなそうに頬杖をついて「ふーん」と言った。

「じゃあ、僕が行ってもいいよね?」
「ですが貴方はもう……」

エンツォが眉を顰める。

確かな証拠を残してきていないとはいえ、ユベールがエンツォの復讐に加担していることはすでにバレてしまっている。王子がそれに関わっているということは、王国の問題になりかねない。

ユベールもそれは避けてきたはずだった。

「別に、僕がリアを欲しがってるのはレオもリア自身も知ってることだよ。昔からずっと求愛してたんだから」

クスクスとユベールは笑って立ち上がった。

いくら呪文でうまくやっても、その正体が明らかになってしまった今では何も関係ないということなのだろうか。

「でもさ、すぐに乗り込むべきだったよね……失敗しちゃった。まぁ、今日からやっとレオが公務を再開するっていうから近いうちに会いに行くよ」
「レオが……?」

レオに負わせた傷は、王家専属クラドールならば1日で治せる程度だったのだ。リアのことで公務欠席をしているのだと思っていた。だがここに来て、表向き体調不良ということで公務に顔を出していなかったレオがそれを再開する。その意味は……

「セストもなかなか優秀だってこと。あーあ、なんでヴィエントにばっかり良いクラドールが集まるんだろう」

ユベールはそう言って肩を竦め、エンツォはグッと拳を握った。
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