風に恋して
「でもね、それで……思い出したの。あの毒は血が止まらなくなるというよりは呪文の効果を薄めているみたいだったから」

トラッタメントの効果がほとんどなくて、止血すらままならなかった。気を濃く練って入れれば入れるほど……

「つまり、呪文が強ければ強いほどそれに反応して効果が薄れていくと?」
「うん……それが、エンツォの使っていたと思う薬に似てるなって思って」

レオとセストが息を呑んだのがわかった。

エンツォが使っていたのは力を増幅させる薬。彼が起こした破壊の風はかなりの水圧をかけていたリアの水のベールを突き破ろうとするほどのものだった。

そしてどちらの薬も呪文、呪術者の気の強さに対して反応を示すもの。インプットが同じでアウトプットが逆。同じものに対しての効果を逆転させる場合、時計の針を逆に回す程度の細工で良い。

ある程度の知識と技術を持ったクラドールならば簡単に改良できる。エンツォならば、片手間にでもやってのけるだろう。

「それは、あの争いで使われていた毒がエンツォの作ったものだということか?」

レオの問いにリアは視線を落とした。テーブルの紅茶は冷めてしまったようだ。

「エンツォが作ったとは言い切れないけど……でも、あの戦いは元々ルミエール王国の紛争から飛び火したものだったし、襲ってきたのが反乱軍なのにそんな薬を使ってたことが変だと思うの」

あの紛争はルミエールの上流階級などに対して不満を募らせた民たちの起こしたものだった。貧しい国境付近の民が簡単に薬品を手に入れられるとは考えられない。

「まさか、ユベール王子が手引きをしていたと?」

セストが苦い顔をする。
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