風に恋して
「あの……人違い、だと思います」

リア、という名前は珍しくない。けれど、真っ直ぐな視線がリアを捕らえたままだ。漆黒の瞳と同じように黒いレオの髪が風になびいた。

「リア・オルフィーノ。間違いなどではない」

そう言った後、レオはリアへ向かって歩き出した。

「で、でも、そんなことはありえません。私は貴方の様な方と――っ!?」

リアは怖くなって後ろへ下がって行く。しかし、歩幅が広く、足取りもしっかりとしたレオは簡単にその距離を縮めて、リアの腰を引き寄せた。

「やっ、離してください!」

花束がリアの手から落ちて芝生の上へと花びらを散らした。

リアはレオの胸を両手で押し返す。身を捩るリアの顎をクッと持ち上げたレオは切なそうに端正な顔を歪めた。

漆黒の瞳は冷たいような、それなのに熱いような、不思議な温度をリアへと注ぐ。スッと高い鼻、そしてその薄い唇が開いて――

「記憶が変えられているな」
「何を――」

リアの言葉はレオに飲み込まれた。柔らかくて熱いものが唇に押し付けられて――
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