風に恋して
「今日は、薬を飲んでいないんだね。良かった……」

本当は“飲めない”状態であるだけなのかもしれないけれど、これ以上、自分を傷つけないで欲しいから。良かったと思う。

「エンツォ……貴方は私に真実を教えてくれた。だから、私も教えてあげる」

リアがエンツォの頬に片手を添えると、エンツォがピクッと身体を跳ねさせた。

「やめろ、俺は知っている!」

そう叫ぶエンツォは、しかし、リアの“真実”という言葉にうろたえているようにも見えた。レオの言葉はエンツォに届かないけれど、リアのそれは……少なくともエンツォの躊躇を引き出す程度には重みがあるようだ。

「知らないよ。貴方は自分がどれだけ愛されていたかを知らない」

だから、それを伝えたくて。

「っ、俺は――」
「大丈夫。怖がらないで」

リアは自分の口の中で水の玉を作った。エンツォの身体をクッと引き、背伸びをして額に口付ける。

小さな水の玉はゆっくりとエンツォの額へと吸い込まれていった――
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