風に恋して
「オビディオ、様……?」

ヒメナは少しパニックになっていた。なぜ、彼がここにいるのだろう。夕食の後、自分はマリナの部屋に案内されたはずだ。姉妹2人で楽しくお喋りをして夜を過ごすために。

「すまない。驚かせたよな。マリナに頼まれて……いや、俺も望んでここにいる」

じっと自分を見つめる漆黒の瞳は、以前と変わらない情熱を秘めてくれていて。

「こ、こんなのは、いけません!私はマリナと――っ」

今しがた閉めたばかりの扉に向かおうと身体を反転させると、後ろから抱きしめられた。

「待ってくれ。話を、聞いて欲しい」
「ダメです。オビディオ様、離してください」

こんな風に抱きしめられたら、心が揺らいでしまう。だが、オビディオは更にヒメナをきつく抱きしめた。

「すまなかった。俺が……もっとしっかり見張っておけばよかった。カリストがお前を気に入っていたことも、アダンが繋がりを作りたいと思っていたのもわかっていたのに」

耳元で紡がれる言葉。苦しそうな、声。

「守れなくて……ごめん」
「……謝らないでください。貴方のせいではありません。私も迂闊でした」

カリストと父親が接近しているのに気づいていたのに、のこのことついていってしまったのだから。

「ヒメナ!なぜ、俺を責めない?なぜ、泣かない?」
「どうして貴方を責めるのですか?私は貴方が、マリナが幸せならそれだけで――っ!」

グッと、顎を掴まれたかと思ったら次の瞬間にはオビディオと唇が重なっていた。
< 311 / 344 >

この作品をシェア

pagetop