風に恋して

運命に逆らって

シン、と静まり返った部屋。

ゆっくりとエンツォの瞼が上がり、記憶の再生が終わったのだと思った。あまり彼に負担にならないよう気をつけて水の玉を入れたのだけれど、やはり少し息が上がっている。

「くだらないね」

静寂を破ったのはユベール王子だった。先ほどリアの水を被っていたから共鳴を起こしてユベール王子やレオにもヒメナの記憶は見えていたようだ。

「リア、お前、エンツォの母親に……?」
「うん。さっき帰って来たんだよ。間に合ってよかった」

そう、リアはヒメナに会いにいったのだ。

ヒメナはリアを見てとても嬉しそうに笑い、出てきたルカの風と戯れていた。ヒメナの母親に許可をもらい、彼女の記憶を覗かせてもらって帰ってきたのだ。

帰り道、ルカがぐずり出したのには冷や汗をかいたけれど……

「力を与えたから父親面なの?めでたい人たち」

フッと、ユベール王子がため息をつく。

「なぜ……」
「エンツォ、レオが幸せなのはヒメナ様との約束なんだよ」

かすかに声を出したエンツォに、リアは微笑んだ。

もちろん、オビディオがその約束のためだけにマリナやレオを愛していたわけではない。でも、ヒメナもそれを望んでいた。そんな彼女がエンツォにそれを壊して欲しいと思うわけがない。

「もうやめよう?ヒメナ様ね、エンツォに会いたがってたよ」

エンツォはいつから彼女に会いに行かなくなったのだろう。城に入ってからは、実家に帰る様子はなかった。 
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