風に恋して
リアが覚えているのはそこまでだ。その後は、おそらく何かの呪文で眠らされてここまで連れてこられたのだろう。

一体、何がどうなってしまったのだろう?一国の王がリアのような娘を攫うようなことが起こるなんて、誰が予想できただろうか。

リアの唇に触れる指が微かに震えた。

(帰らなくちゃ……)

リアがそう思ってベッドから出ようとしたとき、ノックもなく部屋のドアが開いた。

「起きたのか」

低く、艶のある声――リアの胸を熱くさせる。

視線をリアから逸らすことなく一歩一歩近づいてくるレオは、カジュアルな服装に着替えている。生地は上等なようだが、デザインは街で流行っているもののようだ。

ベッドまで辿りつくと端に腰を下ろした。そして、そっとその大きな手でリアの頬に触れてくる。リアはビクッとして身を引いた。

「リア……」

優しい、小さな子をあやすような声で呼びかけられる。もう一度、頬に触れた手の熱さにリアは首を竦めてギュッと目を瞑った。すると、大きな熱が離れていく。少しだけレオとの距離が開いたのを気配で感じたが、リアは目を瞑ったまま身体を震わせた。

「リア、目を開けろ」
「――っ」

リアは首を横に振ってブランケットを手繰り寄せた。

「リア」

だが、何度も呼びかけられて、リアは恐る恐る目を開ける。漆黒の瞳――リアの姿が映るその奥に、熱情と悲しみが揺れている。
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