風に恋して
レオは片手で顔を覆って、全身で息を吐きながらその場に座り込む。

あのときと同じ。自分は成長していない。一方的に気持ちを押し付けて、リアを泣かせてしまう。

少しずつ――それが、リアにとって1番良い。今だって、1歩ずつレオが歩み寄れば記憶も徐々に蘇ってくるものなのかもしれない。それだけの時間を、決して薄くない時間を、2人で過ごしてきた。

それなのに、己を律することができないのはいつだってレオの方で。リアのことになると抑えが効かないのだ。

「リア……」

もう何度、彼女の名前を呼んだのだろう。出会ってから、ずっと……リアの名前を呼ばない日などなかった。それは、リアも同じだったのに。

あれからまた時間をかけて、ようやくリアの恋人、そして婚約者としての立場を手に入れた。リアはレオを愛してくれた。何度も、気持ちを重ねたのに。

今、すべてが振り出しに戻って――いや、マイナスになった。リアはレオの存在をすっかり忘れてしまって。

この城に戻ってからリアが自分の名前を呼んでくれたのは、あの夜の1度だけ。

それも、きっと朦朧とした意識の中で……レオが“呼んで”と求めたからで。

『……レ……オ』

鮮明に思い出せる、リアの掠れた涙声。それは甘く、レオを楽園へと導いてくれた。

信じたい。

リアの中には、かすかにでも自分の存在が残されているのだと。だから、あのとき自分に応えてくれたのだと……
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