風に恋して
そんなリアの様子をカタリナは少し離れた場所から見ていた。

リアが城に戻ってきて1週間ちょっと。相変わらず口数は少なく、部屋に1人でいるときは泣いていることも多いようだが、食事はそれなりにするようになった。

レオに諭されたから……なのだろうか。

そうであるなら、リアの中には少なからずレオの存在が残っているということだ。“婚約者”としての、レオの記憶が。

図書館に来るまでも、リアは怯えたような、失望したような、複雑な表情で辺りを見回していた。カタリナが案内も兼ねて、軽く各部屋の説明をしたが、そんなことをしなくてもリアにはどの部屋がどんな目的のものかわかっているようだった。

知らないはずの城の図面が、身体に染み付いている。それはリアの記憶がおかしいということを証明するだけだ。顔色の悪くなっていくリアをここまで連れてきたのは、彼女の傷口をまた広げてしまうことになるのかもしれない。

カタリナがそう思ったとき、バサッと音がしてリアの手から本が零れ落ちた。

リアの視線の先には、本から飛び出てしまった押し花の栞。

「こんな、こと……」

リアは自分が1度読んだ本には必ず押し花で作った栞を挟む。それがリアの習慣であり、彼女の目に映る確固たる証拠――リアはこの城で生活していた。

「う、嘘。嘘だって言って!」

リアが縋るような目でカタリナを見る。けれど、彼女の求める答えはない。

「嘘ではないのです」

カタリナがそう言うと、リアは駆け出した。

「リア様!?」

カタリナの呼びかけと伸ばされた手を無視して、リアは図書館を飛び出した。
< 44 / 344 >

この作品をシェア

pagetop