風に恋して
「今のお前には……酷なことなのだろうな」

記憶がないまま、突然ヴィエント城へと連れ戻された。リアにとっては“攫われた”と感じる出来事だったはずだ。

「お前が城に来たのは、5歳のとき。俺が、12歳のときだ」

その言葉にレオの腕の中でリアがかすかに首を横に振ったが、レオはそれに構わず続ける。

「初めから、お前に惹かれていた」

大きな瞳でレオを見つめるリアは、怯えながらもしっかりとレオと視線を合わせて逸らさなかった。可愛らしくてすぐに手折られてしまいそうな儚い外見とは違う、芯の強さに惹かれた。

「城では歳の近かった俺とお前は、自然と一緒に過ごす時間も増えて、お前は俺に懐いてくれた」

どんどん綺麗になっていくリア。軍の兵士や執事、たまにパーティで城にやってくる貴族の息子たち……彼女に憧れる男も少なくなかった。

柔らかな栗色の髪の毛、翡翠色の綺麗な瞳。化粧をしなくても十分に美しい白い肌と整った顔、女性らしい曲線を描く身体。穏やかな物腰に恥じらいと奥ゆかしさを兼ね備え、更には聡明で優秀なクラドール。

身分は同じ。クラドールは人の命を救うことができる尊い職業として地位は高い。王家専属クラドールとなれば、上流貴族とも肩を並べるほどの認識をされる。

親しくない者には特に消極的なリアの1番近くにいるのはレオだと自信があった。けれど、他の男に攫われる――そんな心配が、リアの成長とともにレオの頭から離れなくなったのも事実。

リアのことを、妹として見たことはなかった。けれど、リアはレオが告白をするまで彼を兄のように思っていた。レオの気持ちを伝えたとき、とても驚いていて……途端に怯えた瞳になった。
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