風に恋して
「本当に、覚えていないのか?」

リアは黙ったまま、震えている。

「俺が王だということは?」

その問いに、リアはぎこちなく頷いた。

「俺と会ったことは?」

リアが首を横に振り、レオがため息をつく。少しの沈黙の後、リアが掠れた声で喋り始めた。

「わ、私……貴方のような方にお会いできるような、み、身分じゃなくて……だから誤解で……私、帰らないといけないんです」
「お前の帰る場所はここだ」
「そんな――っ」

リアの言葉を遮るように、レオがその細い身体を自分の方へ引き寄せた。レオの胸を両手で押し返そうとするリアを力強く抱きしめ、レオはリアの首筋に顔を埋めた。

「お前の帰る場所は、ここだ」

首にかかる熱い吐息に、リアがピクリと震える。

「あの町にはお前の代わりのクラドールも派遣した」

クラドール――医者。リアの住んでいるところは国境近くの小さな町で都市から離れているため、若者たちは働き口を求めて出て行き、お年寄りが多い。リアはそんな町で唯一のクラドールだった。

「お前は王家専属のクラドールだ。お前の両親がそうであったように、な。そして俺の婚約者。俺から離れることなど許さない」
「ですから、それは何かの間違いで――ゃ、っ」

肩口に口付けられて、リアはビクッとしてレオを引き剥がそうとするが、力強く抱きしめられていて、レオの身体は離れない。
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