風に恋して
廊下では執事や侍女が忙しなく行き交っていた。今日も、誰か貴族が城にやってくるのだろう。彼らの出入りしている部屋は、来客用の部屋だ。

すれ違うたびに頭を下げられて、自然と早足になる。

この城で暮らし始めて3週間……諦めもある、しかし、こういった扱いには慣れない。

図書館で適当に新しい本を手にとって部屋へと戻る途中、ふと、リアは見覚えのある扉に気づいた。いや、正確にはその扉が少し開いていたから気になった。

図書館へ行くのに何度も通った場所だからその部屋の存在は知っていたし、そこが城のクラドールが使う研究室だということも……認めたくないが知っていた。

リアは引き寄せられるようにその扉に歩み寄り、扉を押した。

そっと中を覗いてみるが、誰もいないようだ。

研究室にはたくさんの薬品が置いてあるし、その中には取り扱いに注意しなければならないものもある。患者のカルテなどの個人情報だって保管してあるはずだ。

こんな風に扉を開けたままにしておいていいような場所ではないし、“不注意”だけで済まされる問題でもない。何かあってからでは遅いのだ。

「あの……誰か、いらっしゃるのですか?」

一応声を掛けてみたものの、返事はない。

リアはため息をついて扉を閉めようとした。鍵は掛けられないが、扉だけでも閉めておく方がいい。

だが、リアはすぐにその手を止めた。目に留まった写真に見覚えがあったから。
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