風に恋して
「え――?」

扉の横の本棚、薬品調合の資料が並ぶそこに置かれた写真立て。その中に、自分が映っている。

リアはふらりとそれに近寄っていく。自分の容姿を見間違えるはずない。自分の両親の姿だって――鮮明に覚えている。

「……おか、あさん…………お父さん……」

城の中庭の噴水のそばに笑顔で立つ父、寄り添う母。そして、父の腕に抱かれて笑う幼いリア。

噴水の周りの花壇には色とりどりの花が咲いていて、綺麗だ。今の城の中庭の景色と……重なる。

「しゃ、しん……?」

不思議に思ったことさえなかった。少し考えれば、おかしいとわかることなのに――リアは家族の写真を持っていない。

リアは弾かれたように窓際の机に駆け寄り、その引き出しを片っ端からあけて中身を投げ捨てるように床に落としていく。

そうして散らばったノートやファイルを手当たり次第に開いて読んだ。

城での診察や街での往診の記録、患者さんのカルテや流行り病の分析と治療方法……それらが、確かに父親の筆跡で書かれていた。

その隣の机の中身は母親のそれで、その中には自分の書いたものも混ざっている。

机の引き出しに鍵がかかっていないことも、研究室の扉が開いていたことも、すっかり頭から抜け落ちていた。

心臓が痛いくらいに脈打つ。
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