風に恋して
「食べたくな――」

リアがカタリナの手を振り払ったとき、ノックの音がした。カタリナが返事をすると、シェフが昼食の用意を持って入ってくる。

「リア様、お座りになってください」

カタリナがもう一度声を掛けてくるけれど、リアは動かなかった。

「リア様、今日はクリームシチューでございますよ」

今度はシェフに優しく声を掛けられる。白髪交じりの年配のシェフ。柔らかく微笑んで、出来立てで湯気の立つシチューの皿をコトリとテーブルに置く。サラダは綺麗な彩り、ドレッシングもリアの好みの味付けだと香りでわかる。

シェフは焼きたてのパンが数種類入ったバスケットを持って「さぁ」とまた笑いかけてきて。

全部がリアの大好きなメニュー。

食欲のないリアのために、とカタリナに頼まれて用意してくれたのだとすぐにわかった。

「デザートはスフレを……」
「いらない!」

リアがシェフの言葉を遮る。突然、大きな声を出したリアに、カタリナもシェフも驚いて黙り込んだ。

「いらない……」

食べたくない。

今、おいしそうだと思ったのは一体誰?

シチューが食べたいのは?サラダのドレッシングが好みなのは?
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